国際福祉機器展

9 /29-10/1の期間に東京ビッグサイトで開催されていた国際福祉機器展を見学してきた。

 これは福祉機器の総合展示会で、ハンドメイドから最先端技術を活用した大手メーカまでが一堂に会している。今回は全部で500社弱が集まり、海外メーカの姿もかなり多く見られた(というよりも分野によっては日本製が無い)

 車椅子と義肢を中心に話を聞いて来たが、興味深い例を幾つか。

・階段昇降用車椅子
 これは何社か出しており、NabtescoのJ-MAXやAlber Japanのscalamobileなどが代表例か。
Youtubeにも動画が載っているが、

原理はどれも似ており、降りるときは背中側を階段の上になる側に向け、前輪を持ち上げて傾けて、階段の下の段に「足」を伸ばして設置→それを足がかりに降ろすという形。昇りは逆に動く、それが本当に「足」であるかタイヤであるかによって動かし方は多少異なる。古典的なクローラとは異なり、専用の車椅子は必要なものの脱着が可能なのが強み。

・超軽量車椅子
 スウェーデン製の車椅子Panthera X

カーボンフレームで4.2kg…凄い…

電動バイク+車椅子
 YDSの電動バイク。前輪にメカニズムが集中しており、駆動も前輪のインホイールモータ

後部が台車になっており、車椅子でそのまま乗り込める。完全に自力で乗り込め、最高速度40km/h。
これは量産化されると使えるのではあるまいか。

・MR流体ブレーキ装具
 関西次世代ロボット推進会議のプロジェクトの一つ「MR流体を用いた装具用継手の開発」
足首の部分に磁性流体が仕組まれており、接地時や蹴りだしの際には足首を固め、遊動時には解除することで効率的に力を伝達する。

全体に「アクティブに動ける」障害者に目が向いてきた印象がある。別に病院にばかりいるわけでもないのだから当然なのだが。

種型UAV

Via Popular Science "Scenes From a Drone Trade Show"

Lockheed Martinのエンジニアが持っているのはカエデの種を模したユニークな垂直離着陸型(VTOL)のモノコプター無人機"SAMARAI"の試作品である

カエデの種というのはこの写真の様なものですね。

種の本体が入っている部分が重く、それを中心にくるくる回転すると翅の部分で揚力が発生して落下速度が遅くなり、種が広く拡散するという仕組みになっている。もしもプロペラの推力で回転させれば位置を維持することも出来る。
以前の動画をみると、

おお、ちゃんと飛んでいる。

この動画だけでは推進方向のコントロールがどうなっているのか不明瞭ながら、上昇/下降に関しては十分コントロール出来ているようである。
個人的な予測としては、こうした機体は精密な位置制御や速度が求められる用途ではなく、構造の単純さを利して小型・多量に投入する方法が適していると考えている。
昔描いたポンチ絵をさらしておこう。

さて、これが実戦投入されるのは何処の戦場か?

石上純也展

 土曜日にむしゃくしゃしたので「石上純也展 建築はどこまで小さく、あるいは、どこまで大きくひろがっていくのだろうか?」に行った。後悔はしていない。
 石上氏がヴェネツィアビエンナーレ国際建築展で金獅子取っちまったせいでか、会場はかなり混み合っていた。もちろん噂の出展作品がある訳ではない。そもそも3時間で崩壊したそうだし。

写真でも何だか分からない…

 展示内容は、立体化されたアイディアスケッチの様な作品と実際のプロジェクトの模型が混在している。

 アイディアのほうは「山を刳り貫いたプラネタリウム」や「海底まで壁で仕切られた空間」などの空想的なものや、様々な形状のデザインスタディが主で、まさに「スケッチ」という感じ。
興味深いのは素材である。石膏と紙粘土らしき、白いやわらかい感じの展示が多く、「風の吹く家」という作品は石膏(粘土?)で作られたリングを捻った形状であるが、もしもこれを硬い樹脂で作っていたら「心地よい風が吹く家」というコンセプトとは大きく異なった印象を与えていただろう。
 実際の計画に近いものの中で印象に残ったのは「cafe&park」である。これは大学のカフェテリアの計画らしく、柱のない空間と藤の這った天井が印象的。

 こう見ていくと、ヴェネチアの展示も少し納得がいく。構造が内部の空間を規定するなら、逆に「構造の見えない」空間を作り出せれば視覚的な制約は減少する。ならば、極北として見えないほど細い「柱」があってもいいと。ふむ。なかなか。10/17までらしい。おすすめ。

ショーケースと照明

そういえばハンス・コパー展はパナソニック電工ミュージアムということで随分面白い照明器具を使っていた。
http://panasonic-denko.co.jp/corp/museum/collection/popup/gallery.html
上のリンク先に紹介されているのは「LEDスポットライト」と「LEDダウンライト」、「高演色 LEDケース照明」、「有機EL照明パネル」である。

薄いのでガラスケースの天板に収まる。これは美しい。

そう、パナソニックにとっては商売なので、ショーケースとして魅力がなければならない。
非常に面白かったのがLEDのスポットライトである。模式図で描くと

こんな感じ。本体内にLEDが収められており、反射鏡で斜め上を照らす。
まあ大して先進的な製品でもないのだが、ケースの隅にほぼ完全に収まった状態で斜め上が照らし出されるため、正面から見ている時にライト自体が視界に入らない。

どこかで使い道のありそうなデザインである。

ハンス・コパーと造形

パナソニック電工ミュージアムで開催していた「ハンス・コパー展」に行く。

 ハンス・コパーは、イギリスの20世紀後半の陶芸の作家。ドイツ生まれで、ユダヤ人だったので故郷を出て、同じ境遇だった陶芸家ルーシー・リーの工房からキャリアをスタートし、独創的な造形と質感で評価された、という風に解説には書いてある(笑

今回は初期から最晩年まで、100点以上の作品が展示された大規模な展覧会で、最後には彼が影響を受けたルーシー・リーの作品も展示され、比較できるような構成になっていた。

 特に初期の作品は明確にルーシー・リーの影響を受けている(合作もある)のだが、比較してみると違いもある。個人的な印象ではリーの方がフォーマルというか、例えば釉薬を引掻いて線状の模様を描く技法でもリーは明らかに「文様」であるのに対してコパーはより荒々しく、全体の造形を強調するような模様になっている。合作の場合はやはりリーの色が強く出ている、ってか雇い主だからな。

 独立以降の作品では技法上の特徴である、轆轤引きした回転体形状を接合した造形が多く出てくる。典型的なのがボウルを横倒しに二枚合わせて壺の中央部分にした形状である。
轆轤の跡もそのまま、荒々しい印象で、作者も発掘品をイメージしていたらしい。この表面のざらついた質感は水に溶かした泥漿をかけて乾かすことで作られているらしい。どうやってくっつけたのかと思う複雑な形状も多いが、何よりこの質感が古代の作品のような、強い印象を与えている。

 また所謂容器以外の作品も手掛けており、会場でも目立っていたのが「ウォール・ディスク」である。これは陶器で出来たドーナツが壁にはめ込まれているもので、向こう側が筒抜けに見える。学校の壁の飾りらしいが、こういった依頼ものや工業品のタイルのデザインも手掛けた辺りがモダニストらしい。

 最晩年には「キクラデスフォーム」といわれる底の窄まった形状に執着していく。これは恐らく古代地中海世界の「アンフォラ」に影響を受けたのだと思うが、コパーの作品では底を地面に刺すのではなく台座と接合されている。

 最後のルーシー・リーの作品はいかにも彼女らしい鮮やかなものが多かった。どうも観衆の受けもコパーより良いようだ(苦笑)

 東京ではもう終りだが、岐阜や岩手でもやるようなのでご近所の方はぜひ。

メイドさん大暴走

Via The Star Online "Indonesian maid stomps infant to death"

Puchongでインドネシア人メイドが15カ月の幼児を踏み殺して姿を消した。
事件は先週金曜日に起きた。25歳のジャワ島出身のメイドが幼児が病気だとその親に伝えたため、親は近所に住む親族に
病院に連れていくよう依頼、午後4時に親族が家で意識を失っている幼児を発見した。病院に搬送されたものの
到着時には幼児はすでに死亡していた。
検視の結果、幼児の首には絞められた跡があり、脳内には出血が見られ、踏みつけられたようなあざと肺の損傷も発見された。
捜査の結果このメイドは2年近くこの家族と生活しており、両親は幼児が骨折した際に虐待を疑っていたが、裏付けるものは無かったことが分かった。

 この事件自体を知ったのはTwitter上でのことだったが、外国人メイドがトラブルに巻き込まれる(加害者被害者問わず)というのは仄聞するところだったので、言い知れない嫌な気持ちが湧いてくる。

 今回の事件はマレーシアのクアラルンプール近郊で起きたのだが、マレーシアにインドネシアから出稼ぎというのが正直ピンと来なかった。だが、実は一人当たりGDPで3倍近く離れているし、不法就労者が多く問題になっているようだ。もちろん合法的な出稼ぎも多く、2006年の資料だが「インドネシア女性の海外出稼ぎをめぐる諸問題」(PDF)を見ると、インドネシア人の出稼ぎ労働者の実態がまとめられている。多いのは湾岸諸国のサウジやクウェートで、マレーシアは2位である。これはイスラム圏の方が生活慣習などで馴染み易いのも影響しているのだろう。
 ハウスメイドに関しては家の中で外から見えにくいことや、訴え出る先も無いことで、虐待に巻き込まれる例も多いらしい。同じニュースサイトの記事にマレーシアで虐待されたインドネシア人メイドの写真が載っている。前掲の報告書でも多くの聞き取り調査を行っているが、

若いクウェート人たちにレイプされたり,所持品を奪われたりした後,砂漠に遺棄される事件も多発している。

だの

半年間給料をもらえずに家畜小屋に寝起きさせられ,家畜のえさしか与えられなかったという女性(註:シンガポール)

ずいぶん酷い話ばかりである。2009年にはついにインドネシアはマレーシアへの労働者派遣を停止してしまっている。

 とくに単純労働の分野では、その社会の平均的な賃金水準がダイレクトに実収入につながってくる。従って労働力の移動を止めるのは簡単ではないし、シンガポールのように余所から「労働力」を持って来ることでしか成立しない様な社会が出来上がってしまっている場合もある。いやもちろん「外国人労働や救済機関や監視体制を作りつつ門戸開放を図る」という教科書的回答もあるのだけれど、虐待であったり、もしくは冒頭の事件のような感情のもつれは解消できない。ベビーシッターが子供を虐待だの嫁さんが家政婦をいびるなんざありふれた話だけれども、自分の周囲の共同体に組み込まれた人間に対して行うのとその外の人間に行うのでは、後者の方が強度が高いケースが多い気がしてならない。
 
 少なくとも、アイロンを家政婦に押し付ける人間が恐らくは有能なキャリアウーマンだったりするのだろうと考えながら暮らすのは、地獄だな。

大豆による接着

Via Gizmag "Tofu ingredient used to create formaldehyde-free plywood glue"

ウィスコンシン州の米国農務省Forest Products Laboratoryでは、環境に優しい大豆由来の木材用接着剤を研究している。
 大豆たんぱく質から作られるこの粘着性物質は、石油由来の接着剤と同等に強力で、有毒な揮発性の成分を持たない。このプロジェクトに参加しているCharles Frihart博士によると、たんぱく質由来の接着剤は20世紀初頭には合板製造などに広く用いられてきたが、コストなどの理由で後に石油由来の製品に置き換えられた。しかし、環境問題や技術的進歩によって再び復活を遂げた。Frihartの目標は現在のものよりも強力な大豆由来の接着剤を開発することである。
 大豆由来の接着剤は現在石油由来の製品の市場の5%以下を占めるに過ぎないが、この研究によって世界中で「グリーンな」接着剤の使用が広がることが望まれている。

 石油由来の溶剤が有害であるとして、植物製品に置き換えが進んでいる例としては、印刷用のインクが挙げられる。大豆油インキは石油系の製品の代替として広く使われている。もちろん全く問題点が無い訳ではなく、リンク先にあるように1)乾燥が遅く、紙質を選ぶ 2)コストがやや高い、など完全に代替できるわけではない。それでも環境コストが重要視されていることで使用が広がっているらしい。

 合板や家具用の接着剤も正に室内で使われるわけで、当然揮発成分は少ないに越したことはない。またこのニュースが面白いと思った理由の一つは、これがある種復刻である点である。たんぱく質系の接着剤としては牛乳から製造されるカゼインが今でも使われているし、WW2の傑作爆撃機de Havilland Mosquitoの初期生産型もカゼイン系接着剤を使用していた。また木材用の接着剤で最高級のものが使われたのは航空機とピアノであり、実はWW1頃まで両者は共通点が多かったのだ。この辺は近代ピアノ技術史における進歩と劣化の 200 年(PDF)が常軌を逸して詳しい。

 ただ結局は合成樹脂に比して耐水性に劣り、使いにくく(添加剤などの配合が微妙で硬化にも時間がかかる)、強度的にも劣るため使用されなくなってしまった。

 さて、大豆たんぱくは恐らく、牛乳から作られるカゼインよりはコスト的に優れているだろうが、何より使い勝手の向上がなければ辛いような気がする。例えばエポキシ並みに「チューブから出してすぐ使える」状態で販売できれば、一定の市場は確保できるんでなかろか。
 室内でもVOC汚染がここまで問題化される昨今、建売住宅などの売り文句としては「植物由来の低VOC住宅」は最適だろうと思われる。